高野山のダライラマ師、そして正倉院展の蘭奢侍

インタビュー取材で高野山に行っていた。折りしもダライラマ師が来日して高野山大学の連日講演会を開いていた。インタビューの翌日、拝聴させてもらった。第一部は「仏教と科学」という切り口で茂木健一郎さんが科学者二人とダライラマ師の間を仕切っていた。第二部は仏教について、きわめて専門的な話で、しかし、興味深かった。

この手のシンポジウムは通訳を介すので時間のロスが生じ、後に出版されたものをじっくり読むのが賢明である。だが、ダライラマ師のご尊顔を直接拝したのは初めてで、生の声を拝聴する、その経験こそに意味があった。

インタビューの終わりに、今年の正倉院展では蘭奢侍(らんじゃたい)が観られると聞いた私は、奈良まで足を伸ばして実物をしかと見届けてきた。

お香に興味のある人なら一度は見たい「蘭奢侍」。もちろん聞香できれば望ましいのだが、国宝とあっては、それもかなわない。なにせ天下統一の銘香”と謳われたこの香木を、過去に足利義政・織田信長・明治天皇が切り取っている。展示では誰がどの部分を切り取ったかも、示されていた。「蘭奢侍」の文字の中に、「東大寺」の3文字が隠されているのも興味深い。

今回の展示、本当の目玉は金銀鈿荘唐大刀のようである。手で握る部分は木製で鮫の皮を巻き、鞘も木製で動物の薄い皮を張り、漆を塗って動物や草花を金の蒔絵で描いて射る。部分的に銀製鍍金(ときん)の透かし彫り金具をかぶせて、水晶や色ガラスの玉をはめ込んでいる。これまた美しいのである。

正倉院展のためだけに奈良に出向くのは難しい。こういうとき、関西在住の人がうらやましいと思う。