2003年4月19日

金毘羅で句会デビュー

かねて俳句に興味があった。アートディレクターの浅葉克己さんが娘さんと開いた個展のオープニングで辰巳琢郎さんに会い、ある句会に参加することにした。彼とは20代から縁があり、幼なじみのような存在だ。

百夜句会と名づけられた、その句会は恋愛の句を詠むことが条件で、主宰者は黛まどかさんだ。メンバーは辰巳さんのほか、増田明美さん、わたせせいぞうさん、坂東三津五郎さんなどである。今回は坂東さんが「四国こんぴら歌舞伎大芝居」に出演中なので、皆で金丸座にて「三人吉三」を観た後、句会が始まるころになっている。特別の日に参加できて、私にとってはなんとも幸運なデビューとなった。

国の重要文化財の指定を受けた金丸座は金毘羅宮のある象頭山のふもとにある。1835年(天保6年)に立てられ、現存する歌舞伎劇場としては日本最古の建物である。1976年に現在の場所に移転・復元。人力で動かす「廻り舞台」や「せり」などの舞台装置が江戸時代のまま残されている。昔ながらの観客席と舞台が「高窓」と呼ばれる明かり窓から差し込む光の中で浮かび上がり、「三人吉三」にはぴったりだ。通し狂言『三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)』は同じ「吉三」という名前を持つ三人の盗賊の因果を描く、黙阿弥の名ぜりふに彩られた名作だ。市川團十郎を座頭に、中村時蔵がお嬢、坂東三津五郎がお坊を演じる。お坊吉三は三津五郎さんにはまり役だ。

いやあ、歌舞伎はこうでなければいけない。

「四国こんぴら歌舞伎大芝居」の切符は旅行会社に買い占められ、正攻法で切符を手に入れることはかなり難しい。かぶりつきの席で観られるのも、ひとえに三津五郎さんのおかげだ。せっかくだから江戸の町娘風の着物を着て楽しみたいもの。翌朝には金毘羅詣を控えているので軽装姿でやってきていた。日ごろ運動不足の私が1500段も上って奥の院にたどり着けるものかどうか。讃岐うどんもたらふく食べたい。高松までやってきたのだから、やってみたいことがいっぱいだ。東京近郊にこんな芝居小屋があれば、もっと落ち着いて楽しめるのに。

さて、観劇の後はいよいよ句会である。事前に4句、芝居を観て1句考えておくことになっていた。恋の句であることが、この句会の特徴だ。なにせ新人なのだから、その場で考えるなどと器用にはこなせない。朝早く起きて考えることにした。恋をテーマにといわれれば、作詞を手がけていたころを思い出す。5・7・5におさめる作業は、曲を渡され、言葉をはめ込む作詞と作業が似ている。春の季語が入れば成功だ。

句会では作者を伏せて句を書き出し、各自がお気に入りの8句を選んでいく。その行程が一番楽しいのだと思う。そして発表――。私のデビュー作はいずれも人気だった。これもビギナーズ・ラックというべきか。正確な結果は2ヶ月後の句会で渡されるので、その際に公開しよう。 

今日は生まれて初めて作った、記念すべき5句をここに披露する。

春の季語で恋の歌を4句

    くちびるを重ねし髪に花吹雪

    君の香をしばしとどめん春の雷

    逃げ水を追うて二人のフェルマータ

    声かなた見上げて同じ春の月

こんぴら歌舞伎を見て一句

    盃や因果はめぐる朧月