8月○日 成田井戸端会議

 1年もワシントンにいたというのに、NY在住の友人に一度も会わずに終わってしまった。

 会おうね会おうねと言いながら、気がついたら私の帰国である。で、お別れの挨拶をしようと電話したら(会っていないのにお別れもないのだが)、彼女も同じ日に帰省するというので、成田で同窓会をすることにした。

 アメリカ便はスーツケースを2個チェックインすることが可能だ。これはファーストでもエコノミーでも関係ない。もしもマイレージのステータスがゴールドなら、たとえエコノミーでも3個まで運んでもらえる。この特権を利用しない手はない。

 69ドルで買ったスーツケースを加えて3つ。チェックインまでは順調だったが、問題は成田に着いてからである。日本の小さな台車に3つ載せれば、さすがにトゥー・マッチ。どうにか重ねてみたものの、前が見えない。それにPCの入ったキャリーバッグもある。

 小さなからだで右往左往。税関の質問に答えていると、

 「トコォ」

 誰かが私の名前を呼んでいる。この呼び方は学生時代の私を知っている人物だ。だが、K子の到着は1時間後。一体、誰?

 振り返れば、K子が手を振っている。

 「派手な服だと思えば、やっぱりトコだった。早く着いちゃったのよ」

 本人にとっては派手というほどでもなく、イッセイミヤケのプリーツ・ワンピースである(プリーツ・プリーズとは違う)。ピンクや抹茶色がほどこされ、いかにもアジア的な色使いなのが目立つだけだ。飛行機の長旅では、プリーツ素材に限る。

 「すごい荷物ね。宅配便で送るの?」

 「もちろん、リムジンで運ぶのよ」

 「そんなに一杯、載せてくれないわよ。一人につきの制限があるんだから」

 ――えぇぇ!そんなぁ。こんな大きいのを送ったら、いくらかかることか。

 思えば、リムジンにはマイレージ制度がない。私が頻繁に乗っているからといって、それを証明する術もない。

 窓口で説得して、どうにか3つ載せてもらうことが決まった。優しいオジサンで良かった。切符にサインをもらって交渉成立。

で、台車にスーツケースを3つ載せた状態で出発ロビーに上がり、スターバックスの前のソファに腰を埋めた。募る話があるはずだったが・・・・

 「今回の党大会、どう見た?在米20年だもんね」

 「ケリーの演説は聞きそびれたのよ。お客さんが来ていたから。でもさ、だからといって、逃して悔しくもない」

 「日本にいたときはブッシュに本当に腹が立ったし、ブッシュ万歳っていうアメリカ人も嫌だったけど、ケリーを見ていると、まだ、あのブッシュのモンチッチ顔のほうが愛嬌あってマシに見えたりするよ」

 「そうなのよ。オツムが空でもさ、なんか憎めないとこがあんのよね」

 「どうせケリーになったって、イラクから引き上げるわけにいかないんだし、経済的には日本に不利だし。ケリーの奥さんもさあ、なんか好きになれないんだけど、どう?」

 「そういう風に言う人多いよ、私の周りでも。なんか下品なのよね」

 「チェイニーと違って、エドワーズはいいんだけどねえ。彼がもう少し早く注目されれば、彼が大統領候補になれたかも。おしかったよね」

 「でも、あの人には次があるからさ。南部出身で貧しさを知ってて。あの人はたしか子どもを事故で亡くしたんだよね。あの爽やかさには好感がもてるなあ。将来が楽しみ」

 「ヒラリーが立っておけば、いまごろ盛り上がって、民主党が勝てたかもね。彼女を嫌いな人が多くてもさ、反ブッシュが彼女を押し上げたよ。演説も力強いし」

 「ほんと。やっぱり、彼女は賢いんだと思う。ちゃんと議員としてやってから、4年後に立つのが賢明だとわかってんのよ」

 「民主党も人材不足。クリントンしかいないことを証明したみたいな党大会だったね」

 「うん、あの人って、なんだかんだって、やっぱりチャーミングだったんだよ」

 「私もアメリカでテレビ見ていて、つくづくそう思った。人の心の掴み方を知っている。あれは天性なんだろうねえ」

 周囲で耳をダンボにしていた人たちは、私たちの会話をどう聞いただろうか。20年続いた夫婦生活にピリオドを打った友人の話を除けば、なんともポリティカルな話題ばかりである。

 アメリカではめずらしくないが、日本の中年女の会話としては異常に響いたに違いない。