4月23日 ワシントンで「豚足」に凝る

 DC にやってきてから、近くのスーパーに行くたび、ずっと気になっていたことがある。肉売り場にはいつも豚足のパックがおいてあることだ。だいたいは4本太いのがごろごろ、時には縦に引き裂かれた状態が8本、ビニールのパックに入っていて、2ドル49セントだったりするのである。

 沖縄の市場ならともかく、東京では、生の豚足にそう簡単にお目にかかれるものではない。沖縄料理ブームとはいえ、新宿などの沖縄食材専門店に乾き物はあるものの、豚足を売っている店に私は出くわしたことがないのである。

 アメリカ人はどうやって、これを料理するのだろうか。少なくともアメリカ料理の店には、豚足がメニューとして記載されているのを見たことがない。ましてや家庭でどうやって食するのだろう。このあたりはアジア人が多い地域ではない。

 いっそ自分で豚足を煮込んでみようじゃないか、と思いたったのは、昨秋だった。私にはクロックポットという強い味方があるのだから、あれで煮込めば大丈夫なはずだ。

この調理器具はおそらく日本でシチューポットという名前で売り出されていると思う。私が子供のころ、日本で突然はやって、我が家でも母がこれを使って、シチューやカレーを作っていたように記憶している。豆も煮ていたかもしれないが、当時の私は豆が嫌いだったので、あまり記憶に鮮明ではない。こちらにやってきてすぐ、近所の家庭用品店でみつけ、少々大きくて45ドルくらいしたが、すぐに飛びついて買ってしまった。日本では小型でも1万円くらいするのを知っていたからだ。

これが至極便利なのである。どんな肉もポットに突っ込んでおけば、コンピュータに向かっている間に柔らなくなる。あまりの安さに買ってしまった大量パックの砂肝までトロトロになるから驚きだ。この理屈でいけば、パンパンに張り詰めた豚足の肉も柔らかくなるはずである。そこで、勇気を出して買って調理してみることにした。

問題はレシピである。恥ずかしながら、料理好きを謳いながらも、私は豚足を煮込んだことがない。ネットで豚足を検索してみた。なんとも便利な時代だ。親切にもレシピが紹介されているではないか。

次の壁は中華調味料だった。生姜はともかく、八角と陳皮は、一体どこにあるのだろう。80年代初頭なら中華街でないと手に入らなかった中華の食材も、東京ならスーパーで簡単に購入できる時代になった。しかし、ここには醤油やラーメンは並んでいても、いわゆるアジアの食材コーナーはない。そういえば、ドライフラワーを使ったクリスマスのリースにあの星型の八角を使ったことを思い出したが、それなら花屋に行かねばならない。はて、どうしたものか。念のため、調味料コーナーの胡椒やハーブの瓶を片っ端からチェックしてみると、あった!マコーミックから CHINIESE FIVE SPICE と書かれたボトルが出ているではないか。Star Aniseとあるのだから、これが八角に違いない。これだ!早速これと生姜の粉末を加えて煮込むことにした。

ところが、醤油とともに味付けをしようという夜になって、我が家に砂糖がないことに気がついた。私はコーヒーにも砂糖は入れたことがない。煮込み料理も味醂で事足りるのである。その夜はあきらめ、翌日、大学のカフェにでむきコーヒーを買い、砂糖を5袋くらいいただいて帰ってきた。

 その結果、出来上がった豚足はといえば、適度に油がとれてまろやかな舌ざわりは悪くないのだが、糖分が足りないためコクに欠ける。やはりブラウンシュガーが足りなかったのだ。

以来、私は究極の「てびち(豚足の煮込み)」を定期的に作り、コラーゲンを摂取している日々である。とりわけ日本に帰った折、インスタントのソーキそばを見つけてからは、沖縄料理モードに入っている。台湾料理店のカウンターで食べる豚足も悪くないが、豚足はやはり「てびち」だろう。やはりソーキそばのかつおだしとのコンビネーションにはかなわない。

ペンタゴンの隣ワシントンのアパートで、アメリカ料理をさしおいて、あえて沖縄料理を食するのは、まことに気持ちのいいものである。