12月○日 ゴルカル党大会2日目

 4月にワシントンで党首であるアクバル・タンジュンに会ったときは、あまりに老いたその姿に衝撃を受けたほどだ。しかし、アカウタビリティ・スピーチとビデオ通して彼の党首としての尽力を示されて、その理由が痛いほど理解できた。スハルト政権崩壊以降、彼は国会議長としてその運営に心砕いただけでなく、ゴルカルを政党として再生させるために、インドネシア全国を奔走したのだった。

 インドネシアでは共産党をつぶした歴史がある。同じ轍は踏むまい。独裁者が去ったからと言って、その集票マシーンであったゴルカルをつぶしてはならない。ゴルカルとは職能グループであるのだが、実質、与党としての役割も担ってきた。しかし、32年にわたるスハルト政権が倒れて数年、インドネシア社会全体が熱に浮かされたように反ゴルカルにまわった。その逆風の中、アクバルや幹部がこの党を支えるために踏ん張ったのだった。99年に6万人だった党員を40万人にまで増やした功績は評価されてしかるべきだろう。

 彼は大統領の器ではないけれど、実務派の政治家としては優秀だと感じ入った。99年、ワヒドではなくメガワティが大統領になり、アクバルが副大統領になっていれば、インドネシアの歴史は少し違ったかもしれない。

 さて、いよいよ明日は党首選挙の日。焦点は副大統領ユスフ・カラvs現職アクバル・タンジュンの闘いだ。

 もしもカラがゴルカル党首におさまれば、SBY(スシロ・バンバン・ユドヨノ)政権は安泰、と思いきや、これがどうやら違うらしい。恐ろしいことに、彼は大統領よりも権限を持ってしまうため、SBYが窮地に追い込まれることになる。すでに正副大統領の不協和音が聞こえてきているのに、カラが党首になれば思うツボ。2年後には財界をバックにつけてSBYは大統領の座から追い落とされるかもしれない。

 インドネシアのテレビ局はオーナーの意向で論調が決まる危うさの中にあり、彼らがSBYのネガティブキャンペーンをはれば、追い落としなど容易いことだ。カラには大衆をひきつける魅力がないので、5年後に国民の直接選挙で大統領に選ばれることは、ほぼ不可能。ならば、大統領をはずして自分がスライドする以外にチャンスはない。彼が米国副大統領チェイニーのように「副」でおさまることに我慢ができなければ、フィリピンの女性大統領アローヨのように、ちゃっかり副大統領から大統領に昇格することを狙う可能性は十分にある。

 それを阻止するためにもアクバルを党首にという人々と、カラという勝ち馬に乗ってインドネシア社会でのし上がろうとする人々の闘い。これがバリで起きていることだ。ウィラントは自分の票をアクバルに渡し辞退した。